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2013年6月16日日曜日

ふつつかものですが

 ずいぶん前だが、未就学児の発達相談の仕事をしていたことがある。時には幼稚園などに出向き、子どもさんにいわゆる知能検査をすることもあった。
 園の門をくぐると、園児たちがわらわらと集まってくる。子どもたちは「知らない大人」が好きだ。「誰かのお母さん?」「新しい先生?」そんな好奇のまなざしを受け、気づけば腕や腰に子どもたちがぶら下がって「子どものなる木」状態になっていたりする。この出張仕事が、私はいつも楽しみだった。

 そのとき検査室にいたのは5歳の男の子で、最初は素直だったが次第に落ち着きがなくなり、ついに検査続行が不可能な状態になってしまった。
 子ども相手の仕事だから、こういうこともある。とりあえず、部屋の外の先生に声をかける。入室した先生は、男の子を見るなり「ハッ!」というような表情を見せた。そして私が不審に思う間もなく、さっさと男の子を連れて行ってしまったのである。
 え、何? 何か落ち度があったかしら、と不安になりつつ、部屋を片付けて園舎の外へ出た。そして園庭で、目撃してしまったのである。

 手洗い場の横で、泣きじゃくる男の子。隣では先生が男の子の下着を洗っている。そうか、おもらししちゃったんだ。なんだ。事情が分かって安堵した反面、複雑な思いも湧いてくる。
 だったら、その場で言ってくれればよかったのに。気づかなかった私も悪いけど、あんなにそっけなく去っていかなくてもいいのに。

 先生は、わざと言わなかったのだ。部外者である私の前で、男の子が恥ずかしい思いをしないように。そう思い至ったのは、かなり後になってからだった
 大学出たての小娘だった私は、おもらしに気づかなかっただけでなく、そんな先生の配慮にも、思いが至らなかったのだ。自分の未熟さを突きつけられたような気がした、痛い記憶である。

 時は流れて当時の小娘も一児の母になり、息子も幼稚園へ入園した。そしてある日のお迎え時のこと。
 見覚えのないズボンを穿いている我が子に動揺し、「ちょっと濡れちゃったんだよね」とボカして伝えてくださった先生の御配慮にもかかわらず、他の園児やママさん方が大勢いる中で、周囲に響き渡る大声で、「おもらししちゃったの!?」と叫んだバカ母は私である。
 ……反省してます。ごめんよ息子。ふつつかな母ですが、はじめまして、大久保きのこと申します。子どもの歌の詞を書いたり詩を書いたり何やら文章を書いたりしております。ささやながら楽しんで頂ければ幸いです。

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