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2013年6月19日水曜日

傘をさしたら

 人間、誰にも教わらなくても出来るのは、呼吸とおっぱいを飲むこと、くらいなのかもしれない。生後七ヶ月頃の離乳食でのこと。
 育児本に「そろそろ手づかみ食べの練習を」とあったため、本の指示どおりに白身魚をスティック状にゆでて目の前に差し出したのだが、本人はまったく手を伸ばそうとせず、口をあーんと開けるのみ。いくら「あーん」しても食べ物が口に入ってこないため、ついには怒りのあまり泣き出す息子。目の前の展開に呆然とする母。

 考えてみれば当たり前で、これまで彼にとって食事とは、口を開けさえすれば誰かが食べさせてくれるものだった。「自分で手に取って口へ運ぶ」という発想が、そもそもないのだ。なるほど、と思いながら、手に握らせてやる。理解しさえすればバクバク手に取って食べる。
 歯磨きのときもそうだった。早いうちから歯ブラシを持たせて慣れさせましょう、と本には書いてあるのだが、当人は何をするものか分からずキョトンとしている。仕方なく目の前で一緒に磨く日々が続いた。真似っこなら子どもは得意である。

 一事が万事、そんな調子。何をするにも見て真似て繰り返し練習して、心身の発達も伴って、ようやく出来るようになる。歩くこと然り、話すこと然り。最大の難関は言うまでもなく排泄習慣、すなわち「オムツ外れ」だろうか。
 最初は補助便座に乗せるだけで大泣き。座れるようになっても水滴ひとつ出てこない日々が何ヶ月も続いた。この頃は「大丈夫、そのうち絶対に外れるから」という先輩ママの慰めが心底辛かった。気持ちは嬉しいけど、渦中にいる人間にはあまり慰めにはならない。いつか終わると知っていても陣痛の痛みは決して和らがないように。

 雨の季節、傘をさして園へと向かう。本人は喜んで持ちたがるのだが、傘を正しく持つのは三歳児にはかなり難易度が高い。体は濡れるし、傘の重さでフラフラするし、車は通るしで母はハラハラである。
 園の門のところで息子を見送って、踵を返して歩き出す。しばらく歩いてから、ハタと気がついた。

(しまった、傘の畳み方、教えてないかも!?)

 下駄箱でまごつく息子の姿が脳裏に浮かんだが、もう手遅れである。後で聞いたら「先生が畳んでくれた」とのこと。そうだよね、傘をさしたら畳まないとね。教わらないことは出来ないよね。いやはや、私が悪かった。家で練習したのでもう大丈夫。さて、次は何かな。入園直前には「脱いで裏返しになったパンツの戻し方」で苦労したっけな……。

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