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2013年7月2日火曜日

甘くておいしい○○の話

 松谷みよ子さんの絵本「ちいさいモモちゃん」シリーズに『ぽんぽのいたいくまさん』という作品がある。風邪を引いたモモちゃんが飲んでいたクスリが、自分も欲しくなった「くまさん」は、モモちゃんのベッドに入り込んで「ぼく、かぜひいたらしい」と主張する。同情したモモちゃんの頼みでママが出してくれたクスリは、しかし「おなか」のクスリだった。途端に「かぜはなおった、ぽんぽがいたい」と主張を変更(!)するくまさん。訝しがるママとモモちゃんの前で、くまさんは叫ぶ。「モモちゃんの あまいおくすり、ほしいよう」……。

 この作品の初版は一九七五年。もう四十年近く前だ。私が読んだのは九六年発行の新装版だが、ところで一体いつごろから、子どものクスリは「甘く」なったんだろうか。
 初めて息子に薬を飲ませたのは生後二ヶ月のときだった。こんな赤ちゃんが薬なんて飲めるのか、と不安がる私に、先生は「大丈夫。甘い薬だから」とあっさり言った。薄桃色の粉薬を水で溶いて唇に乗せると、嫌がることなく口を開けてゴクンと飲んだ。こうして息子の人生初服薬はあっさり終わった。
 その後もいくつか内服薬のお世話になったが、いずれも「甘い」薬だった。薬というのは当然ながら普段は飲まない。飲むのは病気などの「特別なとき」だ。そして子どもは「特別」が大好きだ。
 「ごはんのあとは、おくすり?」息子がせがむ。スポイトで琥珀色の液体をコップに入れる。風邪のときによく出される混合シロップだ。待ちかねたように口を付け、愛おしそうにチュパチュパ味わいつつ飲み終わると、満面の笑みで言う息子。「おくすり、おいしかった! もっとのみたいなあ」……。
 違う。何かが違う。

 もちろん、喜んで飲んでくれるに越したことはない。ネットには「薬を飲まなくて困る」というママさんたちの声があふれているし、薬局にはさまざまな服薬支援グッズが並んでいる。親としては「薬は苦くあるべきだ!」と主張する気には到底なれない。
 しかし世の中には、親として子どもに伝えるべきこともあると思うのだ。たとえばモノの善悪、ルールを守ること。人としてのモラル、この世の理(ことわり)。赤信号は守るべきだし、悪いことをしたら謝るべきだ。春の次には夏がくるし、雨が降れば植物が喜ぶ。みんなで食べるごはんはおいしい。病気のときにのむクスリはニガイ。
 薬とは「甘い」ものだと思っている息子は、いつどうやって真理を知ることになるのか。息子にうつされた風邪を葛根湯(←苦い)であしらいつつ、思い巡らす母である。ちなみに冒頭の絵本は後半、なかなか驚きの展開を見せる。大先生ならではのフリーダムさが炸裂して実に楽しいのだが、図書館等にはあるものの、すでに絶版とのことで残念である。

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