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2013年7月29日月曜日

大事な言葉

 まだロクに話さなかった一歳半頃、息子が理解できる三大ワードは「くつした」「とけい」「ガーゼ」だった。それぞれ彼にとって、とても役立つ言葉だった、というのが興味深い。

 室内では裸足だったので、「くつした」とはお出かけの前に履くものだった。つまり「くつした」と聞こえたら、それは楽しいお出かけの合図なのだ。
 「くつした持ってきて」。こう言うと、息子はいそいそと自分の衣装箱へ向かい、中から靴下を引っぱり出す。左右違ってようが片方だけだろうが、靴下以外の服が周囲に盛大に散らかっていようが、「よくできたね」と頭をなでなでするのが、やる気を削がない子育てのコツである。ほんとか(涙)。

 「とけい」は便利なものだ。息子は毎朝、家族の誰よりも早く起きる。以前は親が起きるまで寝室内でひとり遊びをしていたのだが、「とけい」を覚えてからはそんな必要はなくなった。
 親たちは起きるとき、「時計は……?」と言いながら枕元の「とけい(目覚まし時計)」に手を伸ばし、目をこすりながらしぶしぶ起き上がる。つまり「とけい」を手に取りさえすれば、彼らは起きる。そう気づいた息子は、起きるとすぐに親の枕元の「とけい」を掴み上げる。
 「あい!」。「とけい」を押し付けられた親は、文字盤を見て目をひん剥く。「ご、5時! もうちょっと寝かせて……」。再び寝ようとする親。すかさず「とけい」を黄門様の印籠のごとく振りかざす息子。「あい、あい!!」。以下、根負けした親が泣く泣く起きるまで続く(た、助けて)。

 「ガーゼ」は、さらに素晴らしい。彼がこの世の何より大好きな「ごはん」の合図なのだ。テーブルの上に料理が並び出すと、気配を嗅ぎ付けた息子がやってくる。食事の前に親がこう言うのを、彼は待っているのだ。「ガーゼ持ってきてくれる?」。
 「あーい」と返事もそこそこに、ガーゼを取りにいく息子。時々は待ちきれず、まだ支度中なのに「あい!」とガーゼを差し出す。まだ食べられないとわかると「ギャー!!」。ガーゼを振り回して大激怒。そんな毎日。大変だったなあ……(遠い目)。

 当時、すでにいろんな言葉を理解していたが、まだ意味のある言葉は話さなかった。理解はできても、なかなか自分から口には出さない。そのあたりも、大人が新しい言語を覚えるのと似ている気がする。単に相当、慎重な性格だというのもあるけど。
 この頃は「意味不明な音を喋りまくる」のが、とても可愛い時期でもあった。息子も日本語の音では表現できない、摩訶不思議な宇宙語をくっちゃべっていた。いったい何語を学べば君と会話ができるのか、と途方に暮れたのも、今では良い思い出である。

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