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2013年7月8日月曜日

三人の母

 『ホットロード』(1986 )という漫画作品は「暴走族漫画の金字塔」などと紹介されることが多いのだが、私はこれは「母の物語」でもあると思っている。もちろん、そう思うようになったのは大人になって読み返してからである。作中には三人の母が登場する。主人公少女の母、その親友エリの母、そして主人公のボーイフレンドであるハルヤマの母。

 主人公少女の母は「弱い母」だ。出産早々に夫を亡くし、以降は働きながら少女を育ててきたのだから、世間から見れば立派な母である。しかしまだ35歳と若く気分屋で、辛いときに恋人の元へ逃げ込んでしまうような弱さがあり、反抗を始めた少女に戸惑うあまり正面から向き合うことができないでいる。家出した少女を捜して回っても「世間体を気にしているだけ」としか少女には受け取ってもらえない。
 親友エリの母は「正しい母」だ。ロクに登校してないのに三者面談で「美容学校へ行きたい」と言ったエリを教師の前で張り倒す。家出した少女(エリの母から見れば娘の悪い仲間だ)を自宅に預かり「お母さんが待ってらっしゃること、忘れちゃダメよ」と諭す。心配されていることを感じた少女が「おばちゃん、ごめんね」と口にすると「どうしてそれをお母さんに言えないの」と叱る。そんな彼女に少女は思わず本音を吐露する。娘からも「根性がある」と評される、揺るぎなき「正しい母」である。
 ハルヤマの母は「強い母」だ。一見、この母が最も弱く見える。ハルヤマを連れて今の夫と再婚したが、その環境に反発して家を出、暴走族に入ってしまった息子と、やはり向き合えないままでいる。

 しかし実家の電話を借りたときに「電話代」として三万円を置き残した息子(もちろん「拒絶」の意味である)に、この母は腫れ物に触るような態度から一転、かたくなに金を返そうとするのだ。息子に突き飛ばされても「お母さん、あなたのほうが心配なのよ」とすがりつく。惨めで弱々しい姿を晒して。
 この母は、息子を愛している。そして息子は、そのことを知っている。拒絶のサインとして出した紙幣を、少年が再び手にして家を飛び出すシーンは象徴的だ。グレてしまった息子への愛を、変わらず持ち続ける「強い母」。表面上は非行を繰り返す少年だが、腹の底では親の愛を知っている。そして、そのことが作品後半、主人公少女の救いになっていく。

 少女がついに「自分は母に愛されている」と感じることができた瞬間。その胸にようやく届いた母の言葉は何だったのか。ここでは言及しないが、かつて少女だった一人として、また新米ながら親として、様々な思索のきっかけを与えてくれる物語である。
 将来、自分はどんな母でいられるだろうか。「強い母」でいる自信はまだ持てないが、少なくとも「正しい母」ではありたい、と思う私である。

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