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2014年1月20日月曜日

現実を超えて

 以前に住んでいた街に、不思議な建物があった。年齢も性別も見事にバラバラな子どもたちが、いつも一緒に遊んでいる。中庭に置かれたバスケットゴールから、楽しそうな声が外まで響いてくる。
 前を通るたびに微笑ましく眺めていたが、何の建物だろうと不思議にも思っていた。いわゆる児童養護施設だと気づいたのは、ずいぶん後のことだった。

 施設の子どもたちというと、私はミュージカル映画『アニー』(1982 )を思い出す。禁酒法下のアメリカの孤児院で暮らす孤児たちの物語だが、ここの院長であるミス・ハニガンもまた強烈だ。
 独身で酒浸りの中年女性。権力者には媚びる一方、孤児たちには口汚い言葉を投げかける。孤児たちを呼ぶときは「pig-doroppings!」。豚の落とし物、すなわち豚のフン(!)。「誰もお前らなんか愛しちゃいないよ(Nobody loves you!)」と毒づきながら、孤児たちには「I love you Miss Hannigan. 」と連呼させる、信じられないオバチャンである。
 ミス・ハニガンに罵られ、こき使われる孤児たち。孤児院中を雑巾掛けしながら彼女らが歌う『It's the Hard-Knock Life(つらい生活)』は、しかし悲惨な歌詞に反して実に軽快なナンバーだ。私はこのダンスシーンが大好きで、観るたびに子どもたちの歌とダンスの素晴らしさに圧倒されてしまう。

 『アニー』は、コメディでありファンタジーだ。下品なミス・ハニガンもどこか滑稽で愛せるし、ボニー&クライドを百倍薄めて間抜けにしたような悪役カップルも憎めない。勧善懲悪で舞台も現代ではなく、筋立ても現実にはあり得ない夢物語。だから、安心して楽しめる。孤児院の悲惨な描写も、むしろ孤児たちの今後の活躍を予感させてくれる。
 現実を描いても、現実には敵わない。現実を超えた何かを描かなければ、現実には届かない。この世にファンタジーが存在するのは、それが必要だからなのだなぁ、と時々思う。

 高校生の頃、アメリカでアビューズド・チルドレン(被虐待児)の施設を見学した。悲惨な境遇に暮らす暗い瞳の子たち、という私の先入観はアッサリ打ち砕かれた。彼女らはオシャレを楽しみ友人と笑い、私たちの折り紙実演に「またオリガミ?」と文句を言うほど(日本人訪問者の定番らしい)生き生きしていた。漠然とした「可哀想な子どもたち」が、私の中で生身の人間として立ち上がった瞬間だった。
 アニーの両親を探すため、大富豪ウォーバックスは人気ラジオ番組に出演する。トボケた司会者が歌う番組のテーマソング『You 're never fully dressed without a smile』も大好きなシーンだ。いかにも英語らしいコミカルで洒脱な歌を、ミス・ハニガンの目を盗んでラジオを聴いた孤児たちも、楽しそうに歌う。ここにも生身の息吹がある。

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