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2014年1月22日水曜日

レジの様式美

 時々「保育園ママ=働く母」「幼稚園ママ=専業主婦」と暗に断定している文章を見かけるが、数十年前ならともかく今はそんなに単純ではないと思う。
 パートやアルバイトで働く幼稚園ママは少なくないし、「働きたい」という声もよく聞く。ただし状況はやはり厳しいらしい。雇う側は少しでも長時間働いてほしいが、ママはとにかく時間がない。子どもを見てくれる人がいなければ、身動きが取れない。

 ママの定番のパート先に「スーパーのレジ打ち」がある。「いざとなったらレジでも打って……」なんて言い回しがあるほど「誰でもできる仕事」扱いをされがちだが、本当にそうなんだろうか。
 レジは金銭を扱うから、何かと神経を使う。スーパーは取扱品目も多く、どれもバーコードをピッとやれば済むわけではなさそうだ。レジ入力がイレギュラーな品にはその都度、対処しなくてはならない。
 会計時の商品の扱いにも細かなルールがあるようだ。生モノはカゴの外に置いて最後に戻す。割れ物はパッキンで包む。弁当を買えば割り箸の案内をする、電子マネーやポイントカードの処理、子連れや高齢者の客なら、代わりにカゴを運ぶ。

 立ち仕事の辛さもある。客がいないときは、備品の確認や清掃。客が来たら、しっかり目を見て「いらっしゃいませ」。手はヘソのあたりに置き、眼を伏せて腰を折る。素早く、けれど丁寧に。
 カゴを引き、商品を取り上げ、品名を読み上げながら会計をする。スムーズな所作でお金を受け取ってお釣りを渡し、再び手をヘソに当てて「ありがとうございました」と一礼する。
 私にはスーパーのレジ打ち経験はないが、これまで何千回と目にしてきた光景だ。マニュアル通りこなすだけでも大変なのに、親しげに子どもに話しかけ、ママを励ます一声を掛けるベテランさんもいる。都会の孤独な新米母だった私は、彼女らと会話するためだけにスーパーへ出かけたことすらある。

 お札を数える指先に一瞬、目を奪われる。非日常な金額を扇状でバサッと数える銀行員の凄みはないが、日常の場にふさわしい控え目な美しさ。レジの中にいたのは、20代と思しき若い女性だった。年齢の割に落ち着きがある。ママさんかもしれない。
 一連の仕草はあまりにも自然で、裏に存在するはずの数々の決め事をみじんも感じさせない。たとえば未経験の主婦が、ここまで流れるようにレジが打てるようになるまで、どれくらいかかるのだろう。無愛想で目も合わせない客に向かって、手を胃に当てて笑顔で会釈できるようになるまでどれくらい。

 最近は機械によるセルフレジも増えた。機械は正確だし手順もスムーズだが、あまり美は感じない。
 そこに人間がいるだけで、なぜこんなに美しいのだろう。会計を待ちながら、そんなことを考える私。お札を数える女性。指先が、少し荒れている。

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