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2014年2月10日月曜日

私の声を聞いて

 ずいぶん前の話。夕方、自宅の電話が鳴った。出ると、いかにもオペレーター然とした女性の声が、某テレビ局の報道番組名を挙げて「アンケートに答えてほしい」と告げた。いわゆる「無作為抽出」に、我が家の電話番号が引っかかったらしい。
 貴重な機会だ。私は承諾した。女性は早速、質問を始めた。「あなたは○○総理を支持しますか?」

 私は咄嗟に言葉が出てこなかった。承諾したとはいえ直前まで「今夜の夕飯は……」等とボンヤリ考えていた頭は、すぐにはモードが切り替わらない。
 「わ、わかりません」「敢えて言えばどちらですか?」。女性の声には苛立ちが混じっていた。曖昧な回答は避けるよう指示があったのだろうか。しかしこちらも善意なのだ。苛々される筋合いはない。
 その後も質問は続いたが、自分が何と答えたのか覚えていない。ただ最後に「では日曜8時の『○○』をご覧ください」と女性が言って電話が切れた後、「……観ねえよ」と思ったことは覚えている。

 これも古い話。最寄りの繁華街へ出かけたら、駅前ロータリーが人で埋まっていた。何事かと見ると、著名政治家が演説していた。テレビでよく見る顔だ。
 誰もが一様に携帯電話を掲げているさまは異様だった。「有名人が見られて良かった。さて帰るか」という人たちの群れ。しかし肝心の演説も自慢話ばかりで、私はすぐに飽きてその場を離れた。
 以前に住んでいた街での話。あるとき外出しようと玄関を出ると、ちょうど訪れた大家さんと出くわした。隣にはスーツ姿の五〇がらみの男性が。「区議会議員候補の○○さん。近くにお住まいで、ずっと地域のために尽くしてくれているの」。戸惑う私に、男性は頭を下げた。「よろしくお願いします」。

 私は男性の顔を見た。どこにでもいそうな普通の男性。しかし私には、ささやかな感慨があった。組織というものと縁遠い私にとって、群衆の中の一人ではなく一人の有権者として、私に真っすぐ向き合い頭を下げてくれた政治家は、彼が初めてだ。
 翌日、地元の駅前で、明らかに動員されたと分かる聴衆を前に演説する彼を見かけた。入り組んだ住宅街にある小さな駅で、明らかに通行の邪魔になっていた。地元の生活を本当に知っているなら、あんな場所で演説はしない。このとき誰に投票したかは覚えていないが、彼でなかったことは間違いない。

 「せんきょ」と言えず「さんきゅー行くの!」と叫ぶ息子の手を引いて、雪道を投票所へ向かう。出口に立っていた女性が、私と息子に続いて出てきた相方に声をかけた。「NHKですが……」という声を背後に聞きながら、とっとと歩き出す私。
 今回の選挙では誰ひとり候補者を見かけなかった。代表であり著名人である彼らにとって、私たちは群衆に過ぎないかもしれない。けれどもし一有権者として私に向き合い、声を聞こうとしてくれる人がいるならば、私にだって言いたいことは山ほどある。

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