Now Loading...

2014年3月20日木曜日

歯医者のABC

 カリスマ歯科医がいるというA医院、若い先生が開いたオシャレなBクリニック、総合病院に併設のC歯科。近隣にある3つの選択肢からC歯科を選んだのは、ただ何となく程度の理由だった。息子が一歳半の頃だ。ただし治療を受けるのは私である。
 どこへ行くにも「子どもはどうすれば!?」という問題が付いて回る乳幼児期。予約の電話で一歳児連れであることを切り出すと、電話口の女性はあっさり言った。「それなら受付でお預かりしますよ」。

 受付で預かる!? 子どもを!? そんなことができるの? 半信半疑で病院へ。待合室に歯科衛生士さんが迎えに来る。「あ、お子さんですね」。彼女は受付の女性を呼ぶと、息子に向かって話しかけた。「お姉さんと、あっちで遊んで待ってよっか?」。
 息子は無言でうなずくと、「若くて」「きれいな」受付の「お姉さん」に手を引かれ、母親には目もくれず去って行った。「泣かなくて偉いですね」という衛生士さんの声に、いえ、ああいう奴だって知ってましたから、と心の中でつぶやく私(涙)。

 治療を終えて迎えに行くと、受付の椅子にちょこんと座り、おもちゃの電車を手に「もう来たの?」という顔の息子が待っていた。「とってもいい子でしたよお」という朗らかなお姉さんたちの声に、安堵しつつも妙な予感に襲われる私。
 その後も治療に通うたび、一目散に受付へ向かう息子。いつもの椅子によじ上り、すっかり我が物顔だ。そして最後の治療を終え、衛生士さんが受付に「今日で終わりです」と告げた瞬間、「えー!!」というお姉さんたちの声が響いた。「せっかく馴染んできたのに」「寂しいー」「またおいでね」……。それは病院としてどうなのか。いいけどさ。

 ここの先生は女医さんで、子育て中の身を何かと気遣ってくれる。「歯を磨くのも大変だよね」と言われると、不覚にもホロッとしそうになる。何となく選んだ病院だが、我ながらなかなかのカンである。
 検診で訪れた別の病院では、私がレントゲンを撮っている間、若い男性技師が息子の相手をしてくれた。診察の先生は気難しそうだったが、子連れでも特に何も言わず、気にするそぶりも見せなかった。
 母と子が社会の一員として、風景の中に自然に存在できる。丸ごと社会に受け入れられている、そう実感できるとき、じんわりと幸せな気分になる。

 長年通っている美容院。若い美容師のお兄さんが、いつも息子と一緒に遊んでくれる。豪快にお漏らしをしたこともあるが、嫌な顔ひとつされなかった。
 聞けば店には、別の美容院で「子ども/ベビーカーお断り」と言われて途方に暮れたママさんから、時おり電話がかかってくるという。そんな話を耳にするとき、しみじみと切ない気分になる。

    0 コメント :

    Blog