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2014年5月7日水曜日

A子さんの選択

 A子さんの彼は、高給取りのエリートだった。勤務先は半官半民の大企業。穏やかで優しい性格で、周囲の誰からも好かれた。学生時代から付き合って数年、そろそろ結婚話が出る頃だった。
 「会社の女の子は退屈で」。彼は言った。「あなたみたいな変わった人といるほうが楽しいよ」。

 A子さんは、確かに少し「変わって」いたかもしれない。職業も少々変わっていたが、何より家事が苦手で、からきし結婚願望がなかった。世の男性の多くは、結婚すれば女性が家事全般を担ってくれるものだと、不思議なほど無邪気に信じている。
 その期待に応えられない自分は、結婚には向いていないだろう。A子さんは、そう思っていた。彼は「いいパパ」になりそうだったが、家事は女性がするものだと思っている、ごく普通の男性でもあった。
 悩んだ末、A子さんは彼と別れた。後に彼が「退屈な」会社の女の子と結婚したと聞いて、A子さんは心底ホッとした。やはり自分ではダメだったのだ。

 結婚相手を選ぶとき、あなたは何を重視するだろうか。会話の相性、金銭感覚、望んだ未来が描けるか否か。理想どおりの相手とタイミングよく出会えればいいが、なかなかそうはいかない。「いい人がいれば」と思っても、永遠に待ってはいられない。
 だからといって、妥協はできない。学校の友人を選ぶのとは訳が違う。人生を共にする、かけがえのないパートナー、将来生まれる(かもしれない)我が子の親となる相手を選ぶのだ。
 誰しも、これまでの人生で培ってきたすべてを投入し、第六感まで働かせて全身全霊で選ぶに違いない。たとえ、そんな意識はなかったとしても。

 A子さんが結婚したのは、前世は主婦かと思うほど(笑)家事が万能で、何より「家事は女性がするもの」という意識から全く自由な人だった。その人に出会わなければ、きっと結婚はしなかっただろうと、A子さんは今でも思っている。
 「東京でその程度なら、良い方だよ」。家探しの渦中、こんな台詞を何度か聞いた。確かに東京の住環境は悪い。開けた眺望、明るい陽当たり、ゆったりした間取り。庶民が手の届く予算で、それらを手に入れるのは至難の業だ。
 その程度の眺望、その程度の広さ。「東京で、その程度なら」。あなたはそんなふうに、大事な何かを選ぶだろうか。「男で、その程度なら」。そんなふうに結婚相手を選ぶだろうか。「家にいなくて寂しいけど、稼ぎはいいし」「浮気性だけど、好みのイケメンだし」「その程度なら、良い方だよ」。
 条件はどうあれ、一緒にいたいと心から思えたからこそ、結婚するのではないだろうか。東京云々ではなく、心から住みたいと思えることが、何より大事ではないかと思う。その家に似合う人が、きっといるのだから。そしてA子さんが誰かなどという野暮なことは、できれば忘れていただければと思う。

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