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2014年6月13日金曜日

男前で行こう

 男前、という言葉を聞くと、私は人気漫画『有閑倶楽部』に出てくる一節を思い出す。警視総監である倶楽部メンバーの父親が、暴漢に顔を殴られる。痛々しく腫れ上がった頬を見た、やはり別のメンバーの父親(二人は旧知の仲)が、こんなふうに言うのだ。「あれまあ、どうしただ。男前になって」。

 男前という、字面だけ見れば今でいうイケメンに近い言葉を、顔を腫らした男性に対して使う。暴漢に襲われるという惨事に遭った男性への気遣いと労いが、そこには含まれている。向こう傷を讃える昔ながらの価値観もあるかもしれない。
 子どもの頃に読んで以来、この言葉の使い方にすっかりシビれてしまった私は、自分でも使ってみたいと機会を伺ってきたが、なかなか顔を腫らした男性に遭遇できず、会っても「男前になりましたねえ」などと言えるものではない。やはりあの台詞は、時宗さんと悠理の父ちゃんの仲あってのものなのだ。

 男前という言葉には精神性が含まれる。そこが「とにかく顔はイケてる(中身はともかく)」という意味合いの強い「イケメン」とは異なる。
 芸人の松本人志さんが著書『遺書』(1994 )の中で、お笑いに殉じる姿勢を貫く芸人さんを「オットコ前」と賞賛したことは、当時かなり話題になったのでご記憶の方も多いだろう。ここで讃えられているのも、まさに精神そのものといえる。
 イケメンなどという言葉を使わない世代の方は、単に美男子という意味でも「男前」を使う。けれどそこには「男の本質は顔に出る」という価値観が、やはり横たわっているように感じる。女もだけど。女は化けるから(笑)。

 スーパーに日参するママさんにとって、最も馴染みのある「男前」は、たぶん「豆腐」。あの力強い(?)パッケージは目を引きますからね。「男前アイロン」というのもあるらしい。もちろんハイパワー高スチームが売りだ。
 「男前ブラック」という名前がつけられた布地で、息子用のポロシャツを作る。「ぼくのふく作るの?」「おとこまえなふく?」。そう。男前な服を着て、男前になってね。どちらかといえば丸顔童顔(いや四歳児ですが)の息子に、淡い願いを託す母。

 歩道でいきなり駆け出してつまずいてズデンと転んで、オデコに立派な擦り傷を作った息子。子どもの擦り傷は勲章だ。「男前になったねえ」。かねてから念願の台詞を、ついに口にする私。
 見れば園のお友だちにも「男前」な子がチラホラ。「顔から転ぶ前に、なぜ手をつかない(怒)」という母ちゃんたちの嘆きが聞こえてきそうだが、守りに長けるより前のめりに生きてほしい、そう願ってしまう母である。超のつく慎重派だけどね(涙)。

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