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2014年9月13日土曜日

野球とサッカー

 「大きくなったら、サッカーのせんしゅになるんだ」。園庭で息子が、知人のママさんに宣言している。「だったら、いっぱい練習しないとね」。真摯に応えてくれた彼女に感謝しつつ、私は口を開いた。「たぶんサッカー、ロクに観たことないと思う……」。

 なぜ、観たこともないサッカーの、選手になるなどと言うのか。理由は簡単で、息子が好きなアニメキャラクターのセリフに出てくるからである。
 大きくなったらなりたいもの、好きなスポーツ。こうした質問の回答は、子どもを取り巻く環境に大きく左右される。息子が「やきゅうのせんしゅになる」と言わないのは、彼の視界に野球が入ってこないからであり、今どきのアニメに「将来の夢は野球選手!」と語るキャラが出てこないからであって、本当にサッカーが好きなのかはわからない。

 長嶋世代にあたる私の父は、しかし野球ではなくサッカーに夢中な青春時代を過ごした。「サッカーのせいで志望大学に落ちた」というのが口癖だった。
 子どもの頃、父に連れられて何度かサッカーの試合を見たが、だだっ広いグラウンドの遠方で人が動くだけで、ひたすら退屈だった記憶しかない。
 その昔、運動の得意なクラスの人気者が選ぶのは野球であり、バレー、バスケであって、サッカーではなかった。どちらかというと地味なスポーツだった時代を、ご記憶の方もいらっしゃることと思う。

 Jリーグが開幕した当時、私は茨城県に住む大学生だった。大学生の定番バイトといえば家庭教師や塾講師。そこで出会う小中学生の子どもたちは、誰もが地元のチーム、鹿島アントラーズに夢中だった。
 当時の鹿島にはジーコやアルシンドがいて、日本代表にはカズに中山にラモスがいて、気づけばサッカーは、とびきり華やかなスポーツになっていた。
 この時代の日本選手は、敢えてサッカーを選んだ人たちだ。公園で遊ぶ幼児の親にまで「サッカークラブに入りませんか」と勧誘が来る昨今とは事情が違う。あらゆる意味で「筋金入り」なのも頷ける。

 我が子には見向きもされなかったが、孫の時代はサッカーブームだ。息子の足下にせっせとボールを転がす父を見て、いつかエスコートキッズにでも応募したら喜ぶかしらん、などと妄想する私。
 先日、実家のテレビで、たまたま野球中継を見た息子。東京へ戻ると細長い箱を見つけて振り回しはじめた。「それ、なに?」「球を、こうやって、ここに当てるの」「野球?」「そう。やきゅう」。
 「野球」という単語を、おそらく人生で初めて舌に乗せた息子を見て、彼の世界がまたひとつ広がったことを喜ぶ、かつてハンドボール部だった母である。ウチの高校ではサッカーより人気あったんだけどなあ……誰も信じちゃくれんだろうなあ……。

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