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2014年12月22日月曜日

ありがとう白髪

 「皆さんも白髪が混じる年齢になったのですから、親としての自覚をしっかり持って……」。
 私が小学校へ入ったとき、先生が居並ぶ母たちを見渡して言ったという。保護者の年齢と外見をイジるという、現代の感覚ではちょっと危ない訓示だが、まあウン十年前の話である。

 ところで母は、アラサーの頃には結構な「白髪混じり」だった。まだ若かったし、定期的に染めていたので老けて見えることもなく、娘として特に気にしたことはなかったが、自分も思春期を迎える頃になると、さすがに自覚が芽生えてくる。「もしかして私も、母のように早々と白髪になるのでは……」。
 予感は的中した。が、私はあまり気にしなかった。要は染めてしまえばいいのだ。おかげで髪の色はよく変えた。赤く染めていたこともある。染めてしまえば白髪は目に入らない。現実から目を背けたまま、年月は確実に過ぎ、白髪は静かに増えていく。

 思いがけず子どもを授かり、人生の航路が大きく変わった。子育てというこの上ない幸福に恵まれた反面、睡眠時間は激減し体力的にも厳しく、自分の時間もない日々にストレスが増えたのは事実だ。
 特に最近は立ち退き騒動で(涙)美容院へ行く時間も精神的余裕もなく、ある日、鏡を覗くと中にいたのは自分でも驚くほど、見事な銀髪の中年女性。

 いやビックリした。みるみる髪が白くなって、周囲はもっとビックリしたに違いないのに、誰も何も言わないのが逆に怖い。チョー怖い。
 そして今、私の髪は黒い。それまで白髪+色落ちした茶髪、という状態だったためか、染めたら反動で妙に黒々と見える。これはこれで老けて見える気が(涙)。チューネン女心は複雑で厄介だ。

 昔、赤ちゃんを連れて遊びにきた友人が、「じゃあね」と帰っていく後ろ姿に白髪が目立っていた。お洒落だった彼女の、そんな姿がショックだった。
 でも今は、人生の労苦を背負い、年相応に老いていけるのは幸せなことかもしれないと思う。あのときの彼女は幸せだった。それは間違いないのだから。
 もちろん「労苦」は子育てに限らない。宿命的に老いる肉体を抱え、それでも前を向いて生きること自体が労苦だし、換言すれば人生の醍醐味だ。頑張って生きている証だと思うと、白髪も愛おしい。ありがとう白髪。じゃあ何故染める(……許して)。
 ところで還暦を過ぎた私の母は、いよいよ髪が薄くなってきた。母方の祖母も、外出時はウィッグのお世話になっている。来るべき未来に向けて、今から心の準備をせねばと密かに誓う私である。要は、かぶっちゃえばいいんだよね(←懲りてない)。そして七十代にしてフッサフサな父の髪が、息子に遺伝するか否かは神のみぞ知るところである。

2014年12月10日水曜日

冬のミステリー

 江戸時代からあると言われても疑わない巨大な針葉樹の脇に、赤茶色の三角屋根。電線を軽やかに渡る影は、ネコ!? いや、違う。まさかイタチ!?
 窓に映る景色は、イギリスかどこかの田舎のよう。見知らぬ町へ迷い込んだような気分になってくる。

 しかし残念ながら(?)ここはニッポン、大都会TOKYO。目下、しがない仮住まいの身である。息子の幼稚園へ通える範囲で、という条件で紹介されたというだけの理由で、私たちはここへ越してきた。鬱蒼とした木々が残る古い住宅街。高台なのにどこか湿り気を帯びた、不思議な空気が流れている。
 仮住まいとはいえ生活がある。電気水道ガスにインターネット、郵便局へ転送届を出してアマゾンの届け先住所を変更して……、でも、あくまで一時の仮住まいだから、転居ハガキを出すほどでもない。
 そんな、宙ぶらりん状態で迎える年の瀬。一気に厳しさを増した木枯らしが身に沁みる。ま、慣れてるけどね。ずっと、そんな人生だったし(涙)。

 なのでこの一見、都会とは思えぬ窓外の風景は、思わぬ収穫だった。豊かな緑に映えるシャビーな一軒家。しかしメルヘン気分はあっさり打ち砕かれる。玄関周りには、バリケードのようなゴミ袋の山。そう、ここはいわゆるゴミ屋敷(?)らしいのだ。
 人の気配はほとんどしない。が、時々、夜になると窓に明かりが灯る。住人はいるようだ。ぶっちゃけ今の時代、珍しくもない話ではある。世の中にはいろんな家があって、いろんな事情がある。天井までゴミが積まれた空家、放置され荒れ果てた大豪邸。
 最初は驚いたけど、すぐ慣れてしまった。常識外の存在に違和感を持たないのは、こちらも仮住まいという非日常を生きる身だからかもしれない。

 ある日の朝、息子を園へ送るため外へ出ると、件の家の前に水道屋さんの車が止まっていた。作業服姿の男性が二人、玄関前の通路を行き来している様子を目の端に捉えつつ、自転車で走り去る私たち。
 ある日の午後、今度はパトカーがやってきた。中から数人の警官が出てきたかと思うと、ゴミ袋のバリケードを越えて一斉に突入! おお!!
 しかし気づけば、周囲には静寂が戻っていた。一体、彼らは何を見たのか。何が起きたのか、なぜ警官が来たのかは結局、分からずじまいだった。そして夜には何事もなかったように、窓に明かりが灯る。
 相方は先日、バリケードを超えて家へ入っていく女性の姿を見たという。前の通路を掃き掃除する男性には何度か挨拶をしたが、聞こえていないかのように見向きもしない。
 古い住宅街は人の想いが強すぎて、いろんなものが見えてしまう。分からないものは分からないままで、とどめておくのも悪くないと思うのも、仮住まいのせいなんだろうか。

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