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2015年11月23日月曜日

飲みたい夜に

 大人には、どうしても飲みたい夜がある(……あるよね?)。ところが小さな子どもがいると、なかなか気軽に「飲みに出る」のは難しい。
 それでも最近は「子連れ歓迎」の居酒屋があったり、早い時間のファミレスでお酒やつまみを割引していたりと、パパママも外で晩酌を楽しめる環境が整ってきた。確かにそれは有り難い。でも正直、そういう店ばかりでは飽きが来る(……来るよね?)。

 その日、私たちが向かったのは、ヨーロッパのバルを思わせる雰囲気のチェーン店。手作りの料理がおいしくて以前はよく訪れたが、出産後は足が遠のいていた。ソフトドリンクくらいはあるだろうが、基本的には酒を飲むための店であり、お子様向けメニューなどは存在しない。
 とはいえ外食好きな息子は好き嫌いもなく、食べ物さえあてがっておけば、大人しく座っていられるタイプだ。野菜の入った料理でも取り分けてやれば何とかなるかな、と店のドアを開ける。
 「いらっしゃいませ!」明るい声に案内されて、窓際の禁煙席へ。客はそれなりに入っているのに、埋まっているのは禁煙席ばかり。喫煙席はガラガラだ。酒場なのに。そんな時代なのだな、と実感する。窓外に広がる夜の街に、息子はすっかり興奮気味だ。

 水とおしぼりを持ってきてくれたのは、三十代前後とおぼしき男性の店員さん。息子の前に置かれた水には、小さなストローが刺さっている。
 相方がメニューを選ぶ。すると店員さんが「お子さんも召し上がられますか?」。相方が頷くと、こちらは鷹の爪が入っていますが、抜いてお作りしますか、こちらはコショウが効いているのですが、と、メニューごとに事細かに気を配ってくれる。
 思わず周囲を見回す私。子連れ客は一組もいない。酒場なので当たり前だ。バル料理の味が濃いのも当然で、たまにだからと承知の上で、むしろ迷惑にならぬようサッと飲んで食べて帰ろう、そう思っていたせいか、思わぬ気遣いに驚きつつ恐縮してしまう。

 おいしいお酒と料理に満足そうな相方、フライドポテトに夢中な息子。最後に頼んだのは、きのこのアヒージョ。子どもも食べやすいようにと、付け合わせのバゲットは薄くスライスされている。
 以前、二人でよく行ったバーで、必ず頼んだメニューが砂肝のアヒージョだった。雰囲気のあるバーは、ある日突然、有名チェーンの居酒屋に変わっていた。懐かしい味を、小さな息子の横で思い出す。

 世間は子育て世帯に冷たい、そんなニュースも多いけど、そういう体験が全くないとは言わないけど、子連れのおかげで出会った親切も、決して少なくはない。これまで大勢の見知らぬ方々が、息子に笑顔を向け、声をかけ、気を配ってくれた。世の中には子ども好きな人がこんなに多いのか、と驚くほどに。
 笑顔で息子に手を振る店員さんたちに、頭を下げつつ店を出る。幸せな時間をありがとう。そう心の中でつぶやきながら。

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