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2015年12月7日月曜日

中の人の正体

 二十代の頃、幼児教育番組の制作に下っ端として携わったことがある。かわいい着ぐるみたちが、暑いスタジオのカメラの前、照明の下で演技できるのは三十分が限界だ。休憩の声がかかり、着ぐるみの「頭」を外した演者さんのもとへ、濡れタオルを手に駆けつけるのが下っ端の仕事のひとつだった。

 ショートヘアから流れ落ちる大量の汗。その現場の「中の人」は、いかにもスポーツをやっていそうな雰囲気の、若い女性が多かった。「着ぐるみの中の人」というと、私は今もそんな女性が思い浮かぶ。
 着ぐるみの演技は難しい。手足の可動域のみで喜怒哀楽を表現するのは至難の業だし、キャラクターごとの個性も求められる。たとえアルバイトでも、ダンスや演劇など、何らかの身体表現をそれなりに学んだ人でなければ、こなせないに違いない。
 そんなふうに思っていたから、後年の「ゆるキャラ」ブームの際、自治体の職員さん(すなわち素人)も「中の人」を務めていたと聞いて驚いた。あの、若く体力には自信がありそうな彼女らですら、あんなにキツそうだったのに……。たとえ立っているだけでも私には到底ムリである。若くないし(涙)。

 ベビー用品店、遊園地、ショッピングセンター。小さな子どもが集まる場所で、着ぐるみに遭遇する機会は結構ある。コミカルで愛らしい着ぐるみに大喜びで群がる子どもは多いのに、恐がりで慎重派な息子は、いつも遠巻きに眺めるだけだった。
 それでも、着ぐるみと一緒に撮った微笑ましい写真が何枚かは残っている。怖いのか緊張したのか、どの写真も微妙な表情で、親としては残念だが仕方がない。ちなみに私自身もウン十年前の、「リカちゃん」の着ぐるみと一緒に撮った写真が残っている。
 大人の背丈をもはるかに超えた、巨大サイズのリカちゃんを見て、幼い私は相当泣いたらしい。ムリもない、と今見返しても思うほど、ビッグな頭(当時)のリカちゃんはちょっとコワイ。

 手作りの衣装を着けてマスクをかぶりステージへ。瞬間、沸き起こる子どもたちの大歓声。ああ、「中の人」たちは日々、この景色を見ているのか。そんな感慨が押し寄せて、さんざん練習したはずのダンスの振りを忘れそうになる。
 夢中になって一緒に踊る子どもたちの最後列に、息子の姿が見えた。子どもたちの中で彼だけが、私の正体を知っている。どうも乗り切れない様子なのはそのせいか、それとも生来の慎重さのせいなのか。
 知らないほうがいいこともあるよね、と少し申し訳ない気持ちになる壇上の母(マスク姿)。まさか自分の人生に、こんな日が来るとは思わなかった。「子どもが喜ぶかなあ」という思いだけで、人はここまで来れるらしい。いや、母ってスゴイ(……ちょっと違う)。

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