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2016年3月28日月曜日

世界に一人だけ

 「い〜つのことだか〜、思い出してご〜らん〜♪」
 息子が口ずさむ歌が、季節と共に変わっていくことに驚いた日から、早くも三年近い年月が経った。卒園を控えた三月、息子が家で歌うのは、いわゆる「卒園ソング」ばかりである。
 「今日、幼稚園で何したの?」と尋ねても、答えはいつも「卒園式の練習」……。そうだよね。他にもう、することないもんね、と妙に腑に落ちる私。

 「その歌、ママも幼稚園のときに歌ったよ」「へえ〜!」息子が目を丸くする。この三年間、息子を通じて多くの歌に出会った。園の教室の一角には、あまりにも自然な姿で黒いピアノが佇んでいる。
 「さくらのつぼみもふくらんで〜♪」。絵を描きながら、折り紙を折りながら、息子はまるで息をするように歌い続ける。こんなに歌と音楽に囲まれた日々は、もう訪れないかもしれないと思うと、やっぱり寂しい。最近は「学校がいかに厳しい場所であるか」を、息子に言い聞かせることに熱心な私。

 学校では、先生が優しい声で「○○くーん」と下の名前を呼んではくれない。名字に君付けか、もしくは呼び捨てか。たとえ泣いても「どうしたの?」と、同じ目線で優しく尋ねてはくれない。叱られるか放置であろう。何という違い!!
 学校の先生は、一緒に遊んではくれない。学校は成長の場であると共に評価にさらされる場でもある。幼稚園が母の胎内なら、学校は弱肉強食の実社会?ああ恐ろしい。母は不安で心配でたまらないのだが、息子は自分で紙でテキトーに「百点満点のテスト答案」をでっちあげては喜んでいる。ああ心配……。

 「せ〜かいにひとつだけの花〜♪」。息子の歌を聴きながら、ああ、それも卒園式で歌うのね、とぼんやり思う。息子が無邪気な声で尋ねる。「この歌、ママも幼稚園のとき歌った?」……まさか。だってママ、その歌のおじさんたちと同世代だし(笑)。
 赤ん坊時代、息子の名前でひたすら替え歌をしていた名残で、今でもつい歌ってしまう。「世界に一人だけの○○くん〜♪」。すかさず「ちがう!」とツッコミを入れる、たった六年ですっかり俗世間に染まってしまった息子(……成長したとも言う)。いや違わないから、と心の中でつぶやく母。

 卒園式の前日は、学期終わりの終了式。帰り際に息子の名を呼ぶ声がして、預かり保育でよく一緒になった、一歳下のYくんが駆け寄ってきた。
 「○○くん、しょうがっこうでもがんばってね」。息子より体の大きな腕白ボウズのYくんが、そんなことを言ってくれるとは思わなくて、不覚にもホロリとする。不安も戸惑いも未練も躊躇も、時の川は容赦なく明日へと押し流していく。歌って笑っていればよかった幸福な幼児期が、もうすぐ終わる。

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